年収を上げたい。そう思ったときに、知っておいてほしいことがあります。

昇進、副業、資格、仕事の成果。もちろん、どれも大事です。でも、もう1つ、先に知っておくと参考になることがあります。年収は、住む場所で変わることがある、ということです。

私自身は、不動産営業で、いろいろな物件を紹介し、案内してきました。エリアによって、来るお客さんの年収や仕事が変わる。この仕事の人はこれくらいもらっている、ということも、そこで知りました。

だから、まず知っておいてほしいのは、仕事だけでなく、どこに住み、どこで働くかという環境でも、年収は変わるということです。

もちろん、住む場所だけで年収が決まるわけではありません。けれど、同じ人でも、置かれる環境で結果は変わる。

参考にしたのは、『年収は「住むところ」で決まる』という本と、国の統計です。本の著者は、アメリカの経済学者エンリコ・モレッティです。

では、日本ではどこか。厚生労働省の月給の統計(2025年)では、平均がいちばん高いのは東京都で、全国平均を超えているのは東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県だけでした。

まずは、自分の地域で働く人の給料の平均はどのくらいか、ほかにどこが高いのかを知ること。それが、年収を上げるヒントになると思います。

年収を上げたい人が住むべき場所の5つの条件

条件1 周りに住む人の年収水準が高い

年収は、本人の実力や学歴だけで決まるのではなく、「どこに住んでいるか」でも大きく変わります。

まず、身近なところから考えてみてください。同じ腕の料理人が店を出すとして、駅前の人がたくさん通る場所と、郊外の人通りが少ない場所では、売上がちがってくる。これは、なんとなく想像できると思います。料理の腕は同じなのに、場所で稼ぎが変わるわけです。

これと同じことが、街ぐるみで起きている。それを実際の数字で示したのが、アメリカの経済学者エンリコ・モレッティ(カリフォルニア大学バークレー校の教授。働く人の給料や街の経済を研究している人)です。2012年に出た本『年収は「住むところ」で決まる』(日本語版は2014年・プレジデント社)で、アメリカの300以上の街の給料を、国勢調査局の2008年の調査(アメリカン・コミュニティ・サーベイ=国が毎年やる大きなアンケート)のデータで比べました。

その本に出てくる比較がこれです。ボストン(大学やハイテク企業が集まる街)に住む高卒の人の平均年収は、約6万2千ドル。いっぽう、フリント(ミシガン州の、自動車工場で栄えた街)に住む大卒の人の平均年収は、約4万4千ドル。高卒のほうが、大卒より4割ほど多くもらっていたのです。ふつうは「大卒のほうが稼げる」と思いますよね。住む街がちがうだけで、その差がひっくり返ってしまった。本の中では「こういうことが、しばしば起きている」という言い方をしています(すべての街の組み合わせで成り立つわけではありません)。

なぜそんなことが起きるのでしょうか。

ハイテク企業(グーグルやアマゾンのような会社)で働く人の給料は、とても高いです。すると、そのお金持ちの社員たちを相手にした商売が、街の中に次々と生まれます。社員が住む家を建てる建設会社、家を売る不動産屋、社員が立ち寄るカフェや飲食店、雑貨屋、美容室。ここが大事なところで、大工さんも不動産屋さんも美容師さんも、自分はハイテク企業で働いていません。それでも、お金を持っているお客さんを相手にするので、自然と自分の年収も上がっていきます。さっきの料理人でいえば、「駅前」というだけでなく、「通る人の財布が厚い駅前」に店を出しているようなものです。

私自身、不動産営業をしていたころ、同じ家探しでもエリアによって来るお客さんが全然違いました。住宅ローンの資金計画で年収や勤務先を見ますが、担当したエリアでは「年収1,000万円超が普通に来るんだ」と驚きました。医師だったり、外資だったり、大手企業の共働きだったり。何十組も接客しているうちに、「この街にはこういう所得層が集まっているんだな」と肌感覚で分かってきました。

モレッティは、この連鎖の大きさも数えています。2010年にアメリカ経済学会の学会誌に出した論文で、1980年から2000年までの国勢調査を調べたところ、ハイテクの仕事が1つ増えると、同じ街でハイテク以外の仕事が約5つ増えていた(本人の推定では4.9。内訳は医者や弁護士のような専門職が2つ、飲食店や小売りの店員のような仕事が3つ)。ただし、この「5」には「そこまで大きくないのでは」という研究者もいるので、「モレッティの推定では」と主語を付けて使う数字です。

日本でも、身近なところで似たことが起きています。

モレッティの研究はアメリカのデータなので、そのまま日本に当てはまるとは言えません。ただ、地方で夜のお店で働くより、都心の居酒屋で働くほうが時給が高い、ということはふつうにあります。仕事の中身がむずかしくなったわけではなく、お金を持っている人が多く通る場所にいるだけで、もらえるお金が変わる。「自分の周りに住んでいる人の平均年収が、そのまま自分の年収になる」という言い方もされます。

だから、結論はこうなります。

年収を上げたいなら、自分の技能や専門性を高めることと同じくらい、いや下手をするとそれ以上に、「お金がよく集まる場所・お金の流れがいい場所に自分の身を置くこと」が大切です。

条件2 周りに住む人の教育レベルが高い

年収は、自分の学歴だけでなく、同じ街で働く人たちの教育レベルとも関係します。

職場にExcelが得意な人が1人いるだけで、毎月2時間かけていた集計が10分で終わる表に変わっていた。周りの人もその表を使うので、自分がExcelを勉強していなくても仕事は早くなります。これも、知識を持つ人が周りに与える恩恵の1つです。

これと同じことが、もっと大きな「街」という単位でも起きています。

それを数字で調べたのが、『年収は「住むところ」で決まる』の著者で、経済学者のエンリコ・モレッティ(カリフォルニア大学バークレー校の教授)です。

モレッティが注目したのは、「自分がどれだけ勉強したか」だけでなく、「同じ街にどれだけ教育を受けた人がいるか」も給料に影響するのではないか、という点でした。

モレッティが2004年に経済学の専門誌に出した研究では、アメリカの国勢調査(1980年と1990年・282の都市圏)と、1979〜1994年に若い人6,791人を追った調査を使って、街ごとに「働く人のうち大卒の割合」と「そこで働く人の給料」を比べています。

結果は、大卒の割合が高い街ほど、大卒でない人の給料まで高い、というものでした。数字にすると、街で働く人のうち大卒の割合が1ポイント(=たとえば30%から31%に)上がると、高卒の人の給料は約1.6%上がる、とモレッティは推計しています。推計値は、高校を出ていない人が1.9%、高卒が1.6%、大卒が0.4%で、大卒でない人ほど大きい傾向でした。ただし、大卒の0.4%は統計的にははっきりしません。

この効果がどのくらい大きいかは、研究者の間でまだ決着がついていません。ほとんど無いという研究もあります。また、ここまでの数字はアメリカの都市圏を調べた研究のもので、日本でも同じように「大卒が1ポイント増えれば高卒の給料が1.6%上がる」と確認されたわけではありません。それでも、大卒でない人の給料が、街の大卒の割合と一緒に上がる、という向きは、モレッティの研究では一貫して出ています。

もう1つ注意があります。この研究が測ったのは、街(都市圏)で働く人の平均です。「隣の家に大卒の人が引っ越してきたら翌月から給料が上がる」という話ではありません。大卒の多い街で働いていると、その街全体で起きていることの恩恵を受ける、という意味です。

では、なぜそんなことが起きるのでしょうか。

理由は1つではありません。モレッティは、①高いスキルの人と一緒に働くことで、まわりの人の生産性も上がる ②教育を受けた人が多い街では、会社が新しい技術を取り入れやすい ③人と人が交わることで知識がうつる、の3つを挙げています。つまり、1.6%のすべてが「知識がうつった効果」というわけではありません。ここでは、その中でもいちばん分かりやすい③「知識の伝播」に注目します。

人と人が交わると、知識は少しずつ周りに広がっていきます。

たとえば、ITに詳しい人がたくさん住んでいる街で美容室を開いているとします。そういうお客さんから見ると、昔ながらの美容室のやり方には、「予約って、電話じゃなくてウェブでできないの?」「お店を知ってもらうなら、チラシよりインスタのほうがいいんじゃない?」「髪型も雑誌だけじゃなく、タブレットで見せたら分かりやすそう」と感じる場面があるかもしれません。こうした話が、髪を切っている間の何気ない会話から入ってくることがあります。

でも、知識が広がる道は会話だけではありません。近くのお店がウェブ予約を始めれば「うちでもやってみよう」となる。周りでキャッシュレス決済が当たり前になれば、自分の店にも入れる。インスタで客を集めている店が増えれば、そのやり方をまねする。新しい知識を持った人が多い街では、自分から必死に勉強しなくても、新しい仕事のやり方を目にする機会そのものが増えるのです。

(所得の高い人が地元の店でお金を使って、地元の仕事がうるおう話は、前の条件で見たとおりです。ここでは知識の話だけを見ています。)

その結果、美容師本人の学歴は変わっていなくても、

知識が入ってくる → 仕事のやり方が変わる → 同じ時間でより多くの価値を生み出せる → 売上や給料も上がりやすくなる

という流れが生まれます。

そして美容師がウェブ予約を始めれば、今度はそこで働くスタッフもその仕組みを使うようになる。近くの店がそれを見て取り入れるかもしれない。1人が持っていた知識が周りに広がり、仕事のやり方が良くなり、さらに別の人へ広がっていく。

こうして、ある人が持っている知識が、その人だけにとどまらず周りの人にも広がっていくことを、経済学では「知識の伝播(=知識のスピルオーバー)」と呼びます。

モレッティは、この「知識が人から人へ広がること」こそ、都市が成長する大切な力の1つだと考えています。この考えを発展させた代表的な研究として、モレッティはノーベル経済学賞を受賞したロバート・ルーカスの1988年の研究を挙げています。

参考までに、アメリカの代表的な500社でつくるS&P500では、2026年8月末の時点で、情報技術セクターだけで時価総額(=会社の値段を全部足したもの)の37.9%を占めています(Amazon・Google・Metaは別の分類)。

私自身にも、不動産営業をしていたころ、小さな職場で同じことが起きていました。

先輩がお客さんの資金計画をするとき、ただ「この物件なら買えます」と案内するのではなく、Excelを使って、「この年収なら、無理なく返せるローンはこのくらい」「それなら、探す物件の価格はこのくらい」と順番に考えていました。

私は最初からその考え方を知っていたわけではありません。

でも、先輩が隣で何度も資金計画を作るのを見ているうちに、**「先に買える物件を探すのではなく、まず無理のないローン額を決めて、そこから物件価格を考えるんだ」**と分かってきました。

その後は、自分がお客さんを担当するときにも、同じようにExcelで資金計画を作り、その考え方をまねするようになりました。

先輩が持っていた知識や仕事のやり方が、隣で働いていた私にも少しずつ移ってきたわけです。

これは小さな職場での話ですが、知識やスキルのある人の近くにいると、自分では一から勉強して気づかなかった仕事のやり方を、日々の仕事の中で自然に学べるという例だと思います。

だから、年収を上げたい人が住む場所を考えるときには、「自分より知識やスキルを持った人と接する機会が多いか」も、条件の1つにしていいと私は思います。

自分1人で学べることには限界があります。だからこそ、新しい知識を持った人や会社が集まり、その知識が行き交っている場所に自分も入る。それは、将来の年収を上げるうえでも合理的な選択肢の1つです。

条件3 成長している都市

年収を上げたいなら、「これからも人と仕事が集まり続けそうな街か」も見ておきたい条件です。

同じ駅前でも、新しいマンションが建ち、コンビニやクリニックが次々できる街もあれば、昔あった店が1軒、また1軒と閉まり、空き店舗が増えていく街もあります。この違いは、住みやすさだけでなく、そこで働く人の「仕事の選択肢」にも関係してきます。

周りの人の年収が高く、教育レベルも高かったとしても、その街から人や会社がどんどん出ていけば、長い目では仕事を選べる機会が減っていくからです。

その街がこれからどうなりそうかを見る、分かりやすい数字が2つあります。1つは「将来の人口」、もう1つは「今の人の動き」です。

1つ目は、将来の人口です。 国立社会保障・人口問題研究所(=国の研究所)が2023年12月に出した推計では、2020年の人口を100とすると、2050年は全国で83.0になります。東京都は102.5と2020年を上回る一方で、青森県は61.0、秋田県は58.4です。つまり、2020年に100人いたとすると、2050年には青森県で約61人、秋田県で約58人になる計算です。2050年に2020年の人口を上回ると予測されている都道府県は、東京都だけです。直近の実績を見ても、2025年の国勢調査(速報)では、2020年から人口が増えたのは東京都(+1.4%)と沖縄県(+0.1%)の2都県だけでした。

2つ目は、今の人の動きです。 総務省統計局の「住民基本台帳人口移動報告」(=引っ越しで住民票を移した人を数えた国の統計)の2025年の結果では、東京圏は転入した人が転出した人を12万3,534人上回り(=転入超過)、大阪圏も8,742人の転入超過でした。一方、名古屋圏は1万2,695人の転出超過です。

ここで大事なのは、人口が多い都市なら何でもいいわけではない、ということです。名古屋圏は三大都市圏の1つですが、2025年は転出超過でした。名古屋が衰退しているという話ではありません。「大都市」という名前だけでは、人が集まり続けているかは判断できない、ということです。将来の予測だけでなく、直近で実際に人が入っているかも見る。それが、その街の勢いを考えるヒントになります。

では、なぜ人口が年収に関係するのでしょうか。

「人口が減る=給料が下がる」ではありません。人が減っても、一人ひとりの所得がすぐ下がるわけではないからです。関係してくるのは、その間の段取りです。

人が減る → 地域住民を相手にする店や会社では、お客さんが減る → 売上を作りにくくなる → 閉店・撤退が起き、新しい店や会社も増えにくくなる → 求人や転職先が減る → 条件のよい仕事を選びにくくなる → 年収を上げるチャンスも減りやすい

大事なのは最後の2段です。人口が減ることで「選べる仕事の数」が減り、それが年収を上げにくくします。たとえば、人口が半分になった街で、スーパーや美容室、飲食店が今までと同じ数だけ商売を続けるのは難しくなります。逆に、会社がたくさんある街なら、今の会社が合わなくても次を選べます。たとえば、年収400万円の会社しかない街と、400万円・450万円・500万円を出す会社から選べる街なら、後者のほうが年収を上げるチャンスは多くなります。

実際、日本でも、20代前半では、賃金の高い都道府県ほど転入超過率(=転入超過の人数を人口で割った割合)が高い傾向が確認されています(内閣府「地域課題分析レポート」2024年秋号・2022〜23年のデータ)。ただし、これは「賃金が高いから引っ越した」と原因まで証明したものではありません。それでも、住む場所を考えるうえで「どこに若い人が集まっているか」と「そこでどれくらいの賃金が支払われているか」を一緒に見る材料にはなります。

これは日本だけの話ではありません。『年収は「住むところ」で決まる』の著者エンリコ・モレッティは、2019年のインタビューで、1990年代にはインターネットで「会社や働く人がどこにいるかは重要でなくなる」と思われていたが、実際に起きたのは逆で、場所は以前にも増して重要になった、と話しています。新しい知識を生み出す仕事では、対面の交流や近接して働くことに、今も価値があるためです。

ただし、人口はあくまで物さしの1つです。人口が減っていても、特定の産業が伸びている地域はあります。最終的には「将来の人口」「今の人の動き」「会社や求人の数」「自分の職種」を合わせて見る、と考えておくのが正確です。

私自身、不動産営業をしていたときに、**「人が住みたがる場所では、物件の動き方そのものが違う」**と感じることがありました。

需要の強いエリアでは、人気条件のそろった物件ほど、こちらが一生懸命売り込まなくても、掲載すると自然に問い合わせが入ってきます。

私がお客さんとして物件を探していたときにも、掲載された当日に問い合わせたのに、「もう申し込みが入っています」と言われたことがありました。

勤めていた会社では東京の物件も扱っていて、東京に転勤した先輩もいました。その先輩に「東京の物件はある?」と聞くと、返ってくるのは「もう埋まっている」でした。築浅・バストイレ別・マンションなど人気の条件がそろっていると、まだ前の入居者が住んでいて内見すらできない段階で、先に申し込みが入るそうです。

つまり、需要のある場所では「どうやって売るか」を考える前に、すでに買いたい・住みたい人が集まっているのです。

もちろん、人気物件がすぐ決まることと、その街の人口が今後増えることは同じではありません。

ただ、不動産の現場にいると、人が集まる場所と、そうでない場所では「需要の強さ」が目に見えて違うことを感じました。

この経験からも、住む場所を考えるときには、今の人口だけではなく、**「これからも人が住みたいと思う場所なのか」「人や仕事が入り続けている場所なのか」**を見ることが大切だと考えています。

ここまでの話は、あくまで「年収や仕事の選択肢を増やしたいなら」という話です。生まれ育った街、家族や友人、好きな景色、その土地の文化。こうしたものにも、お金では測れない価値があります。人生を年収だけで決める必要はありません。だからこそ、住む場所を選ぶときは、「私は、収入や仕事の選択肢をどこまで優先したいのか」を自分で決める必要があります。

その優先順位が高い人なら、私は「今、人が多い場所」ではなく、「これからも人と仕事が集まり続け、自分が仕事を選び続けられそうな場所か」まで確認して住む場所を選びたいと考えています。

条件4 通勤時間が短い

ここから先の2つは、どの街を選ぶかというより、その街の中で自分の24時間をどう使うか、という毎日の暮らしに近い話です。

同じ会社に勤めていても、片道15分で着く人と、片道1時間かかる人がいます。1日で見れば1時間半の差ですが、1年にすると差は大きくなります。たとえば、片道30分の通勤を月20日、1年間続けるとします。往復1時間×20日×12か月=240時間。24時間で割ると、寝ている時間も含めてまる10日分です。

年収を上げたいなら、住む場所を決める条件の1つに、**「職場まで何分かかるか」**も入れたいところです。理由は、通勤が短くなれば、毎日自由に使える時間が戻ってくるからです。

総務省の社会生活基本調査(2021年)では、平日に通勤・通学をした10歳以上の人が使う時間は、全国平均で往復1日1時間19分でした。通学も含んだ数字ですが、神奈川県では1時間40分、山形県と宮崎県では56分です。一方、フルタイムで働く人の労働時間は、毎月勤労統計(2025年)の月平均を12か月分にすると約1,900時間。先ほどの年240時間と比べると、この例では、年間の労働時間の1割強にあたる時間を通勤に使う計算になります。

ただし、通勤を240時間減らせば、その分だけ給料が増えるという話ではありません。会社員なら、通勤を短くしただけで給料は増えないからです。大切なのは、戻ってきた時間を別のことに使えるようになることです。資格の勉強でもいい。転職活動でも、副業でもいい。早く寝ることに使ってもいい。通勤に使っていた時間がなくなれば、それまでできなかったことに使える時間が増えます。

しかも、同じ1時間なら、勤務時間が延びるより通勤時間が延びるほうを嫌がる人が過半数でした。森川正之さん(経済産業研究所)が2017年に約1万人に聞いた調査では、働いている人の55%が「勤務時間が1時間増える」より「通勤時間が往復で1時間増える」ほうが嫌だと答えました。逆に「勤務時間が増えるほうが嫌」と答えた人は25%でした。もちろん、これは「どちらが嫌か」を聞いたアンケートで、通勤1時間に何円の価値がある、と測ったものではありません。

ただし、注意点が3つあります。

1つ目は、「通勤が短いほど給料が高い」わけではないことです。同じ森川さんの調査では、むしろ通勤時間が長い人ほど年収が高い関係が出ています(通勤時間が2倍で、男性は4.0%、女性は6.9%高い)。著者自身が「通勤を長くすれば賃金が上がるという因果ではない」と書いているとおりで、給料の高い仕事のためなら長い通勤を受け入れる人がいる、という違いが数字に出ている可能性があります。

2つ目は、通勤を短くするだけで、生活全体がよくなるわけではないことです。内閣府が東京圏の働く人を2019年と2022年で比べた調査では、通勤時間が減った人は健康の満足度が少し上がった一方で、生活全体の満足度には通勤時間の増減によるはっきりした変化は見られませんでした。森川さんの調査でも、通勤時間と仕事・生活の満足度には、男女別に見るとはっきりした関係が出ていません。つまり、「通勤さえ短くすれば人生がよくなる」という話でもありません。

3つ目は、**見るのは距離ではなく「何分かかるか」**だということです。職場が近くても、渋滞で毎日1時間かかるなら、時間という意味では近くありません。反対に、在宅勤務ができる仕事なら、家と会社が離れていても通勤時間はゼロにできます。ただし、雇われて働く人のうち直近1年にテレワークをした人は、国土交通省の調査(2023年)では全国で15%でした。誰でも選べる働き方ではありません。

では、職場の近くに住むために家賃が高くなる場合は、どう考えればいいのでしょうか。たとえば、職場の近くへ引っ越すことで家賃が月2万円上がる代わりに、毎日の通勤が往復1時間短くなるとします。月20日なら、年間で戻ってくる時間は240時間。家賃の差は年間24万円なので、24万円÷240時間=1時間1,000円です。つまりこの例では、自由に使える時間を1時間1,000円で買い戻すと考えることができます。もちろん、実際には通勤手当や引っ越し費用などもあるので、これだけで決めることはできません。それでも、「家賃が2万円高い」だけを見るのと、「2万円で毎月20時間を買い戻せる」と考えるのとでは、住む場所の見え方が変わります。

私自身、今は車で通勤していて、行き先の現場によって片道15分の日もあれば、1時間近くかかる日もあります。不動産営業をしていたときも、会社に行く日と物件へ直接向かう日では、移動時間がまったく違いました。片道1時間かかる日は、ただ車を運転しているだけでも疲れます。帰るとそのまま寝てしまい、残っていた仕事も、自分でやろうと思っていたことも、夜に後ろ倒しになる。そんなことがありました。不動産営業のときは仕事が終わらない日もあったので、通勤に使う時間を、ものすごくもったいないと感じていました。

条件5 やりたいことに手が伸びる場所がある

家だと集中できないのに、図書館やカフェに行くと同じ課題が進む。そんな経験はないでしょうか。同じ人が同じことをしているのに、場所が変わるだけで手の動きが変わることがあります。

年収を上げるために、勉強や副業、転職の準備を続けたいなら、住む場所を決める条件の5つ目に、**「自分がやりたいことに、自然に手が伸びる場所があるか」**も入れたいところです。家の中でもいいし、歩いて行ける図書館やカフェでもいい。理由は、毎日過ごす場所での満足や不満が、毎日積み重なるからです。

内閣府の調査(2026年・約1万人)では、住宅への満足が高い人ほど、生活全体の満足も高いという関係が出ています(同じアンケートの中の関係で、原因と結果を示したものではありません)。国土交通省の調査(2023年)では、今の住宅に不満がある世帯は、約4世帯に1世帯(答えた世帯の23.1%)でした。同じ調査で、住環境への不満のうちいちばん多かったのは「近隣のシェアオフィスなど、自宅や職場以外で仕事のできる環境」で、答えた世帯の45.9%が不満と答えています。3番目に多かったのは「文化施設(図書館等)の利便」で37.4%。5年前の調査より8.0ポイント増えていました。また、内閣府の別の調査(2023年)では、働く人のうち「在宅では仕事に集中することが難しい住環境」を挙げた人が14%いました。

では、住む環境と、体や気持ちの状態には、どんな関係があるのでしょうか。バーゼル大学の研究者が、1997年にスイスで引っ越した人たちを電話で調べた調査では、引っ越したあとに「建物の立地」「空気の感じ」「その家が自分に合っているか」「近所づきあい」「隣の騒音」への満足が上がった人ほど、自分で答えた健康の状態も良くなっていました(発表は2001年。アンケートなので、いい家に引っ越したから健康になった、という証明ではありません)。また、家で働くときの室内環境の研究41本をまとめた2024年の報告では、働く人は家の環境にオフィスより満足していた一方で、一部の家では、音を遮る環境や机・イス、機材が十分でなく、それが健康面の不調の訴えにつながっていた、と書いています。せっかく通勤を短くして時間を取り戻しても、家では落ち着かなかったり、作業できる場所がなかったりすれば、その時間を使いたいことに使いにくくなります。

ただし、注意点が3つあります。

1つ目は、見た目の良い家=仕事がはかどる家、ではないことです。トロント大学の研究者が2026年に出した研究では、オフィスの写真を見せて「ここなら仕事がはかどりそうか」を聞くと、見た目の良い写真ほど高く評価されました。でも、実際に言葉の連想テストをやってもらうと、成績は上がりませんでした。お気に入りの家具をそろえれば成果が出る、とまでは言えません。

2つ目は、住まいと収入を直接つないだ研究は見つかっていないことです。在宅勤務では、部屋の環境と「自分では仕事がはかどると感じるか」などを調べた研究はあります。しかし、「こういう家に住むと年収が何%上がる」と収入まで追った研究は確認できませんでした。だから、この条件から「好きな家に住めば年収が上がる」とは言いません。

3つ目は、万人に良い場所は無いことです。人と場所には相性がある、という考え方が昔からあります。靴のサイズと同じで、「いい靴」があるのではなく「自分の足に合う靴」があるだけです。静かな部屋で落ち着く人もいれば、人の気配がある場所のほうがはかどる人もいます。大事なのは、自分の手が動く条件を、自分で知っておくことです。

私自身、勉強や作業は、家より図書館ですることが多いタイプでした。宅建の勉強も、一級建築士の勉強も、このブログも、家でもやりましたが、図書館のほうが多かったです。図書館だと周りに勉強している人が多くて、「周りがやっている環境」だから自分もやる。そういうことだったと思います。自分が集中できる環境は人それぞれで、私は「周りに勉強している人がいる場所」でした。

日本で年収が高くなりやすい場所は、どこ?

部屋を探すとき、多くの人はまず「どのエリアか」を決めて、そのあと「その中でどの部屋にするか」を選びます。家賃の相場や使える路線はエリアで大きく変わり、階や間取り、日当たりは物件ごとに変わるからです。年収と住む場所も同じで、「街を見て分かること」と「その街の中で自分が決めること」に分かれます。

先に、数字ではっきり言えることを言い切ります。この統計では、月給の平均がいちばん高いのは東京都です。全国平均を超えているのは、東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県だけでした。4都府県はいずれも、東京・名古屋・大阪の三大都市圏にあります。平均賃金の高さだけで働く場所を絞るなら、この4都府県はまず候補になります。ここまでは、この統計から言えます。

元の数字は、厚生労働省の賃金構造基本統計調査(2025年)です。全国平均は月34万600円、東京都は41万8,300円でした。これは2025年6月分の所定内給与額で、賞与や残業代は含みません。また、短時間労働者を除く一般労働者の平均で、10人以上の民営事業所を集計したものです(全国の平均年齢は44.4歳)。年収そのものの順位ではないので、ここでは「ふだんの月給が高い働く場所」を見る目安として使います。事業所に聞いた数字なので、「その県に住む人」ではなく「その県で働く人」の月給です。自分がそこへ行けばこの額になる、という意味ではありません。47都道府県の数字は、厚生労働省の表で見られます。

なので、ここまでの話とつなげると、東京の強さが見えてきます。前に見た人口移動では、転入が転出をいちばん大きく上回っていたのは東京圏でした。2050年の将来人口では、2020年より人口が増える見込みなのは東京都だけです。そして今回の月給の統計でも、いちばん高いのは東京都でした。調べている範囲や単位はそれぞれ違いますが、「人が集まっている」「今後も人口が残りやすい」「平均月給が高い」という別々の数字で、東京が上位に出ています。

今までのデータを合わせると、年収を上げたい人が働く場所を考えるとき、まず候補に挙がるのは東京です。その次に、平均月給が全国平均を上回る神奈川・愛知・大阪も候補になります。ただし、人が集まったから月給が上がったのか、月給が高いから人が集まったのかは、これらの統計だけでは分かりません。

それでも、「だから東京に住め」とは言いません。理由は2つあります。1つ目は、条件によって同じ地域が上位になるとは限らないからです。通勤時間で見た総務省の社会生活基本調査(2021年)では、平日の通勤・通学時間がいちばん長かったのは神奈川県の1時間40分でした。月給が高い地域と、通勤が短い地域は、同じとは限りません。2つ目は、モレッティの研究が「都市」と呼んでいるのが、1つの市町村ではなく通勤圏だからです。本人も2019年のインタビューで、自分の言う都市は1つの労働市場としての通勤圏のことだと説明しています。都道府県とは別の単位で見た研究なので、この研究だけから「この駅」「この区」まで決めることはできません。

では、事情があって今の場所から動けない人は、どうすればいいのでしょうか。月給の表だけを見て「今の場所を捨てて都会へ行こう」とは、私は言いません。5つの条件そのものを変えられなくても、自分が接する仕事・人・場所の一部は、引っ越さずに変えられます。

仕事なら、探す範囲を今の街だけに限らず、リモートで働ける会社まで広げる。通勤なら、在宅勤務が選べる仕事では在宅の日を使い、勤務先を選ぶときに通勤時間も見る。作業する場所なら、近所の図書館やコワーキングなど、自分が手を動かしやすい場所を見つける。周りの人と入ってくる情報は、ネットや勉強会を使えば、日常的に接する範囲を広げられます。「引っ越すか、引っ越さないか」の2択でもありません。普段はリモートで必要な日だけ出社する、月に数回だけ都市部へ出る、という中間もあります。

ただし、注意点が3つあります。1つ目は、これで人と仕事が集まる街に住むのと同じ効果が出るかは、確かめた研究を見つけられなかったことです。少なくとも、モレッティの研究は「ネットがあれば場所の違いは消える」という見方ではありません。ネットで代わりが利く、と軽く言える話ではありません。

2つ目は、集めた体験談に職種のかたよりがあったことです。引っ越さずに働き方を変えた人の体験談を18件集めましたが、書いているのはエンジニア・デザイナー・編集・人事など、もともとリモートで働きやすい職種にかたよっていました。製造や警備のような現場仕事の人の例は、見つけられませんでした。また、この18件のうち、地方に住んだままリモートで働けるようになった3件では、3人とも、まず「リモートで働ける会社」を選んでいました。

3つ目は、対面の人との接点が減ることもあることです。集めた体験談の中には、在宅やリモートになると、仕事のあとに「疲れたね」と言い合える相手がそばにいない、と感じた人もいました。オンラインで人とつながれる一方で、対面のつながりが減る人もいます。

パソコンでできることが増えて、家にいながらでも、図書館からでも仕事ができるようになったのは、いいことだと思っています。私の場合は、住む場所は変えずに、転職で家から近いところで働くようにしました。それから、勉強などの自己投資に使う時間は増えたと思います。私の場合、まず変えられたのは、毎日の通勤時間でした。

年収を上げるための引っ越し、3つの落とし穴

前の章を読んで、「それなら、月給の高い東京に引っ越そう」と思った人もいると思います。この章は、引っ越すと決めた人が、契約の前に見ておきたい話です。

部屋を借りるときの見積もりには、家賃のほかに、敷金・礼金・引っ越し代・家具代が並びます。月給の表には、この列がありません。収入の表だけを見て引っ越しを決めると、支出の列を見落とします。

月給の高い東京は、物価、とくに住まいの値段も高い場所です。いいことばかりではなく、落とし穴が3つあります。1つ目、年収が上がっても、手元に残るお金が同じだけ増えるとは限らない。2つ目、自分にとって年収を上げやすい場所が、家族にとって暮らしやすい場所とは限らない。3つ目、収入が上がる前に、固定費だけが先に上がることがある。

まず、住まいの値段の差を国の統計で見ます。総務省の消費者物価地域差指数(2024年)は、全国平均を100として、都道府県ごとの物価の高さを表した数字です。東京都は、物価全体では104.0ですが、住居だけを見ると127.2で、全国でいちばん高い数字でした。同じような住まいを借りるなら、東京は全国平均より27.2%高い、ということです。家賃を除いた物価は102.2なので、全国平均との差4.0のうち、約半分は家賃です。家具・家事用品は101.5、服や靴は102.9で、住居ほど大きな差はありません。前の章で見た月給は、東京が全国平均より23%高い数字でした。東京は、月給だけでなく、住まいの値段も高い場所です。

ここから、落とし穴を1つずつ見ます。

1つ目、年収が上がっても、手元に残るお金が同じだけ増えるとは限らない。たとえば、手取りが月7万円増えても、家賃が月7万円上がれば、家賃を払ったあとに残るお金は増えません。増えた手取りから、増えた支出を引いて、いくら残るかを見る必要があります。上で見たように、値段の差が大きいのは住まいです。それでも支出が増えるとすれば、その土地の値段だけでなく、住まいに合わせて自分が選ぶものを高くした場合もあります。収入と支出はセットで見て、住む場所を上げるなら、ためる力も一緒に上げます。

2つ目、自分にとって年収を上げやすい場所が、家族にとって暮らしやすい場所とは限らない。これは、一緒に住む人がいる場合の話です。一人暮らしなら、飛ばしてかまいません。自分の通勤が短くなっても、一緒に住む人の通勤や通学が長くなれば、家全体では良くなっていません。前の章までの「職場が近い」「やりたいことに手が伸びる場所がある」という条件は、自分だけでなく、一緒に住む人にも当てはまります。年収だけを良くして、家族全体の暮らしを悪くしたら、住む場所を変えた意味が薄れます。引っ越しの前に、自分と家族が何を大事にするかを、先に並べておきます。

3つ目、収入が上がる前に、固定費だけが先に上がることがある。家賃は、契約した時点で毎月の固定費になります。一方、転職後の年収が見込みどおりになるとは限りません。「年収が上がるはずだから」と先に家賃を上げると、もし年収が上がらなかったとき、上がった家賃だけが残ります。もし高い家賃を「自分への投資」と考えるなら、そのお金を必ず回収できるとは限りません。先に固定費を上げすぎないことは、失敗しても生活が壊れない範囲に収める方法の1つです。

注意点は2つです。1つ目、上の127.2や27.2%は「同じような住まいを借りたときの値段の差」で、実際にみんなが払っている家賃の差ではありません。安い部屋を選べば、差は縮みます。2つ目、この章の数字は国の統計の平均で、同じ人が引っ越して年収と支出がどう変わったかを追った調査ではありません。月給の差と住まいの値段の差を引き算しても、手元に残る額は出ません。手元に残る額は、自分の家計で、収入と支出を実際に並べて計算します。

私の場合は、住む場所を変えずに転職したので、この落とし穴を自分で踏んだ経験はありません。かわりに、引っ越しと家賃で迷った人の体験談を集めて読みました。転職が決まったあと、家賃8万円の部屋にするか6万円にするかで迷っていた25歳の人がいました。8万円の部屋は職場から3駅、6万円の部屋はもっと遠い場所でした。その相談には、「客先で働く仕事だから、半年後には勤務地が変わるかもしれない」と、安いほうを勧めた人もいました。年収が100万円上がっても生活の水準は上げず、その分が貯まったという33歳の人もいました。

私なら、この場合も値段だけでは決められないと思います。半年後に勤務地が変わるかもしれないなら、職場までの近さは決め手になりません。あとは自分の予算です。予算の中なら、どちらを選んでもいいと思います。もちろん、ここでいう予算は、年収が思ったほど上がらなくても生活が壊れない範囲です。

年収が100万円上がったとしても、もとの年収が200万円なのか500万円なのかで意味は変わります。何のためにお金をためているのかにもよります。今できることや、若いときにできることを我慢して、老後にお金持ちになっても、後悔することはあります。

結局、前提によって答えは変わります。だから、「家賃は安いほどいい」とも「良い場所なら高くてもいい」とも決めません。契約する前に、収入と支出と、自分の予算をいったん並べて考えます。

まとめ

この記事では、3つのことを見てきました。

1つ目は、年収を上げたい人が住む場所を見るときの、5つの条件です。

  • 周りに住む人の年収水準が高い
  • 周りに住む人の教育レベルが高い
  • 成長している都市(これからも人と仕事が集まり続けそうか)
  • 通勤時間が短い
  • やりたいことに手が伸びる場所がある

2つ目は、日本で年収が高くなりやすい場所です。厚生労働省の月給の統計(2025年)では、平均がいちばん高いのは東京都で、全国平均を超えているのは東京・神奈川・愛知・大阪の4都府県だけでした。ただし、だから東京に住め、という話ではありません。事情があって動けない人も、自分が接する仕事・人・場所の一部は、引っ越さずに変えられます。

3つ目は、年収を上げるための引っ越しの、3つの落とし穴です。

  • 年収が上がっても、手元に残るお金が同じだけ増えるとは限らない
  • 自分にとって年収を上げやすい場所が、家族にとって暮らしやすい場所とは限らない
  • 収入が上がる前に、固定費だけが先に上がることがある

住む場所だけで年収が決まるわけではありません。けれど、近くにどんな仕事があるか、どんな人と接するか、通勤に何分使うか、家に帰って何をしやすいかは、住む場所で変わります。同じ人でも、置かれる環境で結果は変わる。だから、年収を上げたいなら、仕事だけでなく「どこで暮らすか」も一緒に考えます。

転職先を見るときは、求人票の年収だけでなく、「そこへ通うなら何分かかるか」「近くに住むなら家賃はいくらか」まで、一緒に見てみてください。年収と通勤時間と家賃を並べると、その転職で手元に残るお金と時間を考えやすくなります。引っ越すなら、年収が思ったほど上がらなくても生活が壊れない範囲で、家賃を決めます。

私自身は、良い場所があれば、もちろん引っ越したいと思っています。

ここまで読んで、今の場所から引っ越したいと思ったでしょうか。それとも、今の場所でいいと思ったでしょうか。

この記事の元になった本

条件1〜3で紹介した研究は、アメリカの経済学者エンリコ・モレッティ(カリフォルニア大学バークレー校の教授)のものです。本人が一般向けに書いた本が『年収は「住むところ」で決まる 雇用とイノベーションの都市経済学』(プレジデント社・2014年・訳 池村千秋)。原著は2012年にアメリカで出て、8つの言語に訳されています。

アメリカの街ごとに、仕事と人口とお金の集まり方がどう変わってきたかを、賃金と雇用のデータで調べた本です。人と会社が集まる街と、工場が減った街とで差が広がり続けていること、そして「モレッティの推定では、新しい仕事が1つ生まれると、同じ街に別の仕事が5つ生まれる」という発見が中心にあります。

年収と住む場所の話を、この記事より深く知りたい人は、この本へ。

参考にした主な出典

年収と住む場所の研究(エンリコ・モレッティ)
  • エンリコ・モレッティ『年収は「住むところ」で決まる ― 雇用とイノベーションの都市経済学』プレジデント社、2014年(原書 The New Geography of Jobs, 2012年)(プレジデント社の書籍ページ
  • Enrico Moretti (2013) “Real Wage Inequality” ほか=本人の世界銀行ワーキングペーパー(2013年11月・文書84228)。ボストン $62,423 / フリント $43,866 の表と、その出典行(2008年 American Community Survey・25〜60歳・306都市圏・1,540万人)が載っている(世界銀行のPDF
  • Enrico Moretti (2010) “Local Multipliers,” American Economic Review: Papers & Proceedings 100(2): 373-377(著者版PDFAEA公式の書誌ページ
  • Enrico Moretti (2004) “Estimating the social return to higher education: evidence from longitudinal and repeated cross-sectional data,” Journal of Econometrics 121(1-2): 175-212(著者版PDF書誌(CrossRef)
  • Enrico Moretti インタビュー(聞き手 David A. Price)Econ Focus 2019年 Q1・pp.18-20、リッチモンド連邦準備銀行(インタビューPDFHTML版
  • Robert E. Lucas Jr. (1988) “On the mechanics of economic development,” Journal of Monetary Economics 22(1): 3-42(書誌(IDEAS/RePEc)
上の研究への反対側の材料(記事本文で「異論がある」と書いた部分の裏)
  • Acemoglu & Angrist (2000) NBER Working Paper 7444「social returns … typically less than one percent, not significantly different from zero」(NBER
  • Ciccone & Peri (2006) Review of Economic Studies 73(2): 381-412「no evidence of significant average-schooling externalities」(著者サイトのPDF
  • Moretti 本人の総説(Handbook, p.2288)「it is still too early to draw definitive conclusions on the size of externalities」(著者版PDF
  • 乗数「5」への異論=van Dijk (2018) J. Regional Science 58(2):281-294/van Dijk (2017) J. Economic Geography 17(2):465-487/Osman & Kemeny (2022) J. Regional Science 62(1):150-170
日本の人口と人の動き
  • 国立社会保障・人口問題研究所「日本の地域別将来推計人口(令和5(2023)年推計)-令和2(2020)〜32(2050)年-」2023年12月22日公表(概要PDF公表ページ
  • 総務省統計局「令和7年国勢調査 人口速報集計」2026年5月29日公表(結果の要約PDF
  • 総務省統計局「住民基本台帳人口移動報告 2025年(令和7年)結果」(結果の概要PDF結果の要約PDF
  • 内閣府「地域課題分析レポート(2024年秋号)〜ポストコロナ禍の若者の地域選択と人口移動〜」概要 p.5(PDF
通勤時間と働く時間
  • 総務省統計局「令和3年社会生活基本調査 結果の概要」(概要PDF用語の解説PDF
  • 厚生労働省「毎月勤労統計調査 2025(令和7)年分結果確報」2026年2月25日公表(本体PDF 第2表 p.8
  • 森川正之「長時間通勤とテレワークの便益」RIETI Discussion Paper 18-J-009、2018年3月(本体PDFノンテクニカルサマリー
  • 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)「満足度・生活の質に関する調査報告書2022 〜我が国のWell-beingの動向〜」令和4年7月・p.20-23(PDF
  • 国土交通省「令和5年度 テレワーク人口実態調査」(2023年10月21〜25日・WEB調査・雇用型就業者36,228人)(報道発表PDF
住まいと満足度・集中できる環境
  • 内閣府「満足度・生活の質に関する調査報告書2026」(調査期間 2026年2月27日〜3月14日・10,632人)(報告書PDF概要版PDF
  • 国土交通省 住宅局「令和5年 住生活総合調査(確報)」2025年8月(回収72,723世帯)(PDF
  • 内閣府 政策統括官(経済社会システム担当)「第6回 新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」2023年4月19日公表(調査 2023年3月2〜11日・10,056人)(PDF
  • Kahlmeier S, Schindler C, Grize L, Braun-Fahrländer C (2001) “Perceived environmental housing quality and wellbeing of movers,” Journal of Epidemiology and Community Health 55(10): 708-715(バーゼル大学 社会予防医学研究所)
  • 在宅勤務の室内環境に関する系統的レビュー(41本)、Building and Environment 259: 111652、2024年(CC-BY)
  • Zohar E, Walther DB (2026) Journal of Environmental Psychology 112: 103043(トロント大学)
  • Kurt Lewin (1936) Principles of Topological Psychology, McGraw-Hill, pp.11-12(B = f(PE))(Internet Archiveの全文スキャン
日本の賃金と物価